南国物語 第五話

労働問題に煩わされている中で、会社では新たな出来事が私を待ち受けていた。

現社長には姉がおり、父親を追い出した後、彼が進めていた中国の工場の運営を引き継いで行っていた。
彼女は、聞きしに勝る女傑と聞いており、ついにお目にかかる日がやってきた。
私が会社に入ったことを聞いた彼女は、中国で彼女が計画している事業に私を絡ませようと帰国したのである。

それは、無謀にも中国でテーマパーク事業をやろうというのである。

本人も取り巻きもいたって真面目。
従って、私もまじめな顔で話を聞くことに。

私は、商社の最後の数年間、海外不動産の開発と資金調達の専任であった。
ベトナム・ホーチミン郊外の工業団地開発・インドネシアの大規模住宅団地の開発・シンガポールのセントーサ島のホテル事業開発等など。
これらの風呂敷を広げた手前、あとには引けない。

その女傑と中国出張。場所は紹興の奥深い場所。
上海から杭州に入り、そこから30分ほどの工業団地にある中国工場の視察と、そのテーマパークのモデルと思われる遊園地の視察を数日かけて行った。

具体的なプロジェクトも資金も組織もどこにも見当たらない、ただの気まぐれなお遊びのようなものであることは一目瞭然で、適当に時間を費やして中国を後にした。

その後この話がどうなったか知る由もないが。

私の小牧での『その時』まで、あと数週間である。(NHKの『その時歴史が動いた』のパクリ。)

その日は突然やって来た。

2000年9月11日、中部地方に記録的な豪雨(後に『東海豪雨』と呼ばれる)が襲ってきた。

私は小牧の会社で、数十項目に及ぶ従業員からの質問状にどう回答しようかと頭を悩ませ、夕刻を迎えようとしていた。従って外の気候も、「結構降ってるなあ」程度の関心しかなかったのだが、帰宅を前に会社の周りは見る見る雨水で溢れ、遂に膝近くまで浸水するという未曽有の事態になっていたのである。

生まれてこのかた、町全体がすべて水浸しになった経験は初めてで、
その時、最もひどい所では、庄内川の近くで2メートル近く浸水したと言う。

その天災から数日後、かねて係争の父親と母子との裁判の審判が下った。

最高裁への上告は「棄却」。結審である。父親(創業社長)の経営権はく奪は無効であるという審判である。

直ちに、現経営陣は退陣。創業社長復帰となった。

このことは想定していた範囲内であったから、これ以上この会社に留まる基盤が消滅した以上直ちに退社の意向を伝えこれからの進むべき道に向けて活動を始めた。

退陣を余儀なくされた社長・母親・工場長などの面々はなすすべもなく私の仮寓に押し寄せては、何をなすべきか私の助言を求め時間を過ごすという日々が何日か続いた。

そうした中で、私も少し違う生き方をしてみようかという軽妄な気持ちを持ち始め、彼らの提案する新しい仕事の誘いに関心を示し始めていたのである。(無謀な冒険心(挑戦心というか)が少し芽生えて来たのである。)

そこで、細君にその話を持ち出したところ、即座に、そして冷やかに「おやりになるのは構いませんが、財産の名義を私に変えてからやってください。」と。

細君は、私の軽率でお調子者で、深く物事を考えないで、何か新しいものに飛びつく性格を熟知しており、またかねて私から聞いているその人たちの素性も喝破していたのである。

氷水の入ったバケツを頭の上からひっくり返されたように、目が覚めた。

これが、私の小牧物語の顛末である。

細君の一言がなかったら、今頃どうなっていたかと思うと冷や汗ものである。

その後もしばらく就職活動で小牧に留まったが、実質的な私の小牧での生活は、たったの3-4か月だったが、なんと中身の濃い、波乱万丈の数か月だったかと感慨深い。人生あらゆるところに青山あり、である。

二か月ほど小牧で再就職活動を行い、2000年の暮れ、横浜に帰還した。

小牧物語には後日談がある。

翌2001年6月のある日、名古屋の知り合いから、「中日新聞の社会面にこれこれの人が殺されたという記事がありましたよ。」と。
それによると、かの創業社長が自宅に押し入った強盗に刃物で刺されて殺されたというのである。そして、その犯人はまだ捕まっていないと。

そう、事情を知っている人間(私も含めて)は、これが単純な強盗殺人だとは信じなかったに違いない。
その後、小牧の会社がどううなったか、彼らがどこで何をしているのかは、今まで知る機会がない。

『事実は小説よりも奇なり』である。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント