南国物語 第三話

今の若社長の父親がその会社の創業社長であったが、当時既に家電産業が盛んとなっていた中国(主としてハイアールをターゲット)に事業展開を進めたころからそちらに集中した為に日本の経営をおざなりにし始めたこと、そして中国での事業拡大に非合法的な金を使い、それが当局との係争に発展し始めたこと、日本でのかじ取りに人材がいなかったと言った状況で、彼の妻は、自分たちの長男を社長に据え、創業社長の不信任決議を強行して、いわば会社を強引に乗っ取ったと言う。

これに対して、創業社長は裁判所に仮処分の申請をし、法廷で争うという骨肉の争いに発展した。
そして、私がその会社に係わった頃、その戦いは被告(現経営陣)が一審・二審での原告(創業社長)の主張を認めたことを不服として、最高裁に上告するという状況にあるというのである。

その話を聞いた段階では最高裁への上告書まで見せられたものの、それがいつ裁定が下るのかまでは彼らにも分かっていなかったようで、
『こういう経験も得難いじゃあないか。』と、気持ちが引くより、むしろ興味の方が強かった。(この時、細君に言っていたら反対されていたかも知れないが。)

こうして、波乱を予感させる状況の中で、短くも中身の濃い『小牧物語』がスタートしたのである。

創業社長は、中国を含めあらゆる経営から締め出され、近くに住まいしているらしいけれど、会社や家族とは没交渉であること。
中国は、長女が取り仕切っていること。(この長女とも、しばらくあとにひと絡み起こることになるのだが。)
社内に創業社長のスパイがいるのではないかと思われるフシがあること。
現社長と息子を影で導いている得体の知れない祈祷師・霊媒師のごとき人物がいること。

などが徐々に分かり始め、ドラマのような日々が始まったのである。

まず、その最初は、資金繰り。
どう計算しても資金がひっ迫しており、このままでは倒産の危険性があり、最初の私の給料ですら遅配する状況にあった。(これも細君には伝えていなかったが。)

常識的には、
『とんでもない会社に来てしまったぞ。会社の体を無いしていないじゃないか。これは即刻手を引くべきだ。』と考えるものであろう。

しかし私はそう言う思考に向かわなかったのである。
『引き受けた以上、投げ出すとは何事だ。』と思ったのか、『いや、中々面白いじゃないか。どうするもこうするも自分の力量を試すいいチャンスではないか。』と思ったのか、『どう転ぶかを見極めるのが仕事の醍醐味だろう。』とか、『どう転んでも自分に降りかかるものなど大したことは無いではないか。』とか、『自分の糧にこそなれ、失うものは無いではないか。』とか色々思ったのである。

まず私は地元の金融機関に融資依頼に行くことにした。

その時、経営者は強力な助っ人としての私を前面に押し出し、私自身も、あたかも素晴らしい会社のごとき絵を描き、融資を引き出すことに成功したのである。

このあたりの手練手管は、長年の商社での資金調達業務が活かされたのか、生来持ち合わせていた(のかどうか分からないが)交渉能力や言葉の巧みさなのか、糞度胸なのか、それらのすべてが合わさったのか。

自分自身では実態を認識しているが故に、泥の田んぼに足と手を突っ込んで苗を植えている気持ち悪さと不快感を感じながらも会社に便宜をもたらすべく仕事を進めていったのである。

そうした私の目を見張る活動に若社長ら母子は、私を下にも置かない扱いで持ち上げ、銀行の前でも私の後ろに隠れるように私の‘’詭弁‘’に従っていたのである。

彼らは、ビジネスには誠に無知で、悪意とか作意とか策謀などと言うことからは無縁で、こういう人たちをサポートすることにある種の義侠心を感じて来つつあったのも事実である。
(細君からまた、『あなたはとにかく人が良いんだから。』と突っ込みが入ることは間違いないが。)

次回もまだまだ色々続く。

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